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第2話

Auteur: 狐狸
last update Date de publication: 2025-06-04 13:54:27

アイリスの網膜に焼き付いたその少女の姿は、自身の侘しいそれとはあまりにも懸け離れた、まばゆいばかりの豪奢を極めていた。

整ってはいるものの、酷薄さと傲慢さを隠さないその顔立ちは、今はあからさまな侮蔑の色を湛え、粗末な身なりのアイリスを頭の先からつま先まで見下ろすように細められた瞳を向けていた。

「おはようございます、セリーナ様」

その威圧的なまでの美しさと、隠そうともしない敵意に息を詰めながらも、アイリスはかろうじて声を絞り出し、深く頭を垂れて礼を示した。

それは長年の習慣によって身体に染みついた、条件反射にも似た所作であった。

──彼女こそ、アイリスの日常に暗い影を落とし続ける存在……セリーナ。

アイリスにとっては義理の姉妹にあたる、継母が自身の娘として溺愛する少女、その人であった。

「ごきげんよう、『藁かぶり姫』。今日は随分とお早いのねぇ」

セリーナは扇の先で自身の唇を隠すような仕草をしながらも、その声色は隠しようもない嘲弄に満ちていた。

「ゆうべは、薄汚いお友達のネズミさんたちとのお喋りに夢中で、とうとう一睡もなさらなかったのかしら?」

一つ一つが鋭い棘のように突き刺さる皮肉な言葉の連なりに、アイリスはきつく唇を噛み締めた。

だが……セリーナの刺々しい言葉の雨を浴びながらも、アイリスは一度伏せた顔を僅かに持ち上げ、唇の端に自嘲とも諦観ともつかぬ微かな笑みを刷いて、常とは異なる響きで応じた。

「はい、セリーナ様。昨夜は……とても楽しいひとときでございました。わたくしのような者の拙い話にも、あの子たちは真摯に耳を傾けてくれますもの。もしかしたら……人の心よりも、ずっと温かく、そして優しいのかもしれません」

その言葉は、か細いながらも静かな棘を宿し、セリーナの耳朶を打った。

「まぁっ……!」

一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたセリーナだったが、すぐにその整った顔立ちはみるみるうちに侮蔑と嫌悪で歪んでいく。

「あなた……本気でそう思っているのなら、本当に頭がおかしいのではないかしら?」

その声は、汚物でも見るかのような冷え冷えとした響きを帯びていた。

「……」

アイリスは再び唇を固く結び、いかなる反論も、弁明も無意味であると悟っているかのように、ただ静かにセリーナの次の言葉を待った。

セリーナは、アイリスのその反応すら癇に障るといった風に、侮蔑の色をさらに深めた表情でくるりと踵を返した。磨き上げられた床に、彼女の靴音が不快な音を立てる。

「結構ですわ。今度、お父様……いいえ、国王陛下にしっかりとご報告申し上げておきますから。あの『藁かぶり姫』が、とうとう本格的に狂ってしまった、とね。そうなれば、この城から追い出されて路頭に迷うのも時間の問題かしら?うふふ、あはははは!」

甲高い嘲笑が、冷たい廊下にいつまでも不気味に響き渡った。

セリーナの嘲笑が遠のき、その姿が廊下の闇に完全に溶け込むと、アイリスは堰を切ったように深い溜息を漏らした。

しかし、束の間の解放感は水面の泡とはかなく消え、すぐにまた鉛色の絶望が彼女の心を覆う。

「……いっそ、本当に追い出してくれるなら。そうすれば、どこか……遠い場所へ行けるのに……」

消え入りそうな声で零れたその許されぬ願望を、アイリスは甘美な毒を振り払うかのように即座に打ち消した。

「いいえ……逃げるわけには、まいりません。お母様と交わした、大切な約束があるから……」

その言葉を胸に刻むうち、アイリスの瞳にかすかな光が戻る。

震える指で、首にかかる母の形見のペンダントを強く握りしめる。冷たい金属の感触が、耐え忍び、希望を繋ぐという彼女の決意を静かに後押ししてくれたような気がした。

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